結果を見るのではなく、失敗を許容して挑戦を尊ぶ。
実に京都らしいですね。
秋元 祥治 氏 株式会社やろまい 代表取締役
1979年 岐阜県生まれ。
大学在学中の2001年、起業家人材育成と地方創生をテーマに「G-net」を創業。「G-net」の長期実践型インターンシップ事業は、中小企業支援と若者をつなぐ成功事例として全国的に評価されている。また、2013年より、愛知県岡崎市の公的産業支援機関「オカビズ」センター長に就任し、2021年からチーフコーディネーターに就任。開設9年で累計約2.2万件、3500社の来訪相談の対応を行い、中小企業の売上アップをサポート。メディアでは「行列の絶えない中小企業相談所」として注目が集まっている。2021年には、「武蔵野大学」アントレプレナーシップ学部の立ち上げに携わり、現在教授に就任。
保守的でも排他的でもない、変わり続けるまち
-様々な地域で企業支援をされている秋元さんは、京都にどんなイメージをお持ちですか?
京都が難しいのは外の人が持つ一般的なイメージと、本質的な価値にギャップがあるところですよね。私は、京都は時代に合わせて変わり続け、新たなものを生み出し続けているまちだと思います。よく言われる伝統的・保守的なイメージは一面にしか過ぎない。過去の繁栄が遺跡として観光地となっているのではなく、今なお文化と産業の中心地として存在しているのですから。
変わり続けるけれど、過去へのリスペクトがある。大事にしてきた価値観を育みながら、大胆に変革する。そういったバランス感覚が優れているんでしょうね。新たなものが生まれる際には、それぞれに議論があったと思います。その賛否両論を許容するというのが、京都の懐の深さだと思います。チャレンジをすれば、うまくいかないものが出てくるのは当然なんです。
異質な世界に触れることから価値が生まれる
-企業やまちが、世間の声にも応えつつ、同時に本質的な価値を深めていくためには何が必要でしょうか?
人々のものごとを見る目は、時代とともに少しずつですが確実に変わっていきます。例えば、観光地で写真を撮るよりも、一歩踏み込んで、文化を体験する旅を求める人が増えました。小さなイノベーションの積み重ねによって今の京都があることは、このまちの魅力の本質として、今後もっと知られていくでしょう。そのためには、まず企業が自社の価値を理解する必要があります。外の人から見たらすごいことでも、本人たちにとってはそれが当たり前なので、うまく発信できていない企業が多いんですよね。社外の人、特に異業種の人と対話をすると、自社の価値を知るきっかけになると思います。
自社の事業とは関係のないものごとと交わることは、価値を高めるためにも重要です。イノベーションって、関係のなかったもの同士がつながって新しい価値を生むことなので。雑多な情報にたくさん触れていることが大前提なんです。スティーブ・ジョブズが学生時代に受講したカリグラフィー、いわば西洋の書道の授業が、今では当たり前になったデジタルフォントの発明のきっかけでした。このように、一見関係のない点と点がつながり新たな価値が生まれることを「Connecting The Dots.」とジョブズは呼びました。
最近、アートの世界で対話型鑑賞という手法が注目されています。同じ作品を何人かで見て感想をシェアすると、それぞれ見方が違うんですよ。自分と異なる視点に触れることは、気づきやひらめきを育てる大きなヒントになります。
失敗は結果ではなく、次に活かせる大切なプロセス
-これからさらに企業の挑戦を増やしていくために、何が必要でしょうか?
もっと失敗をほめるべきだと思います。結果を重視してリスクを避けるような支援をするという考え方もあります。でも私は、挑戦することが尊いんだから、失敗も皆でほめようよって言いたい。むしろ、失敗した人を呼んで、皆で応援したらいいと思います。成功を評価する社会から、挑戦を評価する社会になっていってほしい。その実現に近づく一歩としてこのアワードは大きな価値があると感じます。
-ありがとうございます。今後の取り組みにも、ぜひ力をお貸しください。
もちろんです。都って、色んな人が来るじゃないですか。京都は閉鎖的って言われますけど、商売しに来る人、学びに来る人、海外から訪れる人……異質な人々を拒まず受け入れ続けてきたわけで。実は開放的で、挑戦を歓迎してきたまちですよね。多様性こそがイノベーションの苗床です。今日の対話を通して、このアワードは新しい制度でありながら、非常に京都らしい挑戦であると気づかせていただきました。